萩原健一、山口智子、室井滋の奇妙な三角関係を軸に心温まる人情喜劇を描いた映画「居酒屋ゆうれい」若き日の豊川悦司と西島秀俊の演技にも注目
#芸能 #俳優 #インタビュー 2025.9.4

三島由紀夫賞を受賞した実力派の小説家・山本昌代の小説を原作として、小さな居酒屋を舞台に、主人公の居酒屋店主と妻、幽霊となって現れる前妻との奇妙な三角関係を軸に、店の常連客たちが織り成す人生模様を綴った映画が2025年9月9日(火)に日本映画専門チャンネルで放送される「居酒屋ゆうれい」(1994年)だ。 横浜・反町の居酒屋「かづさ屋」の店主・壮太郎を萩原健一が演じ、当時「高視聴率女王」と呼ばれて人気絶頂だった山口智子が後妻の里子を、室井滋が前妻のしず子を演じている。 居酒屋「かづさ屋」の主人・壮太郎(萩原)は、妻・しず子(室井)が息を引き取る前に、決して再婚はしないと約束する。だが、兄の豊造(尾藤イサオ)夫婦の強引な勧めで見合いをした里子(山口)の魅力にクラッときて、しず子との誓いを破って再婚してしまった。 それを恨んだしず子は幽霊となってこの世に舞い戻る。かくして、壮太郎を巡ってこの世の女とあの世の女が壮絶なバトルを展開することになっていく。とはいえ、他人の眼にはしず子の姿は見えず、美人女将目当ての客が激増して店は大繁盛。壮太郎の幼馴染でバクチ打ちの辰夫(三宅裕司)、三河屋酒店の幸一(西島秀俊)、魚屋「魚春」のオヤジ(八名信夫)、学習塾の先生で、家族を捨てて引っ越してきた佐久間(橋爪功)... そんな常連客たちの人生を交えてストーリーが展開。壮太郎と里子夫婦がしず子が起こす騒動の解決に乗り出して寺の住職に相談したことから、さらなる騒動が巻き起こっていく。 監督を務めたのは、「新 居酒屋ゆうれい」も手掛けた渡邊孝好。織田裕二が主演した「エンジェル 僕の歌は君の歌」などの秀作も手がけているが、やはり本作が彼の代表作と言える。第68回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画第3位に選定された他、第49回毎日映画コンクールで日本映画優秀賞を受賞するなど高い評価を受けた。 俳優陣も室井滋が第18回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞をはじめ、第37回ブルーリボン賞助演女優賞、第19回報知映画賞助演女優賞、第68回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞、第49回毎日映画コンクール女優助演賞など数々の映画賞に輝いた。報知映画賞では室井に加えて萩原健一が主演男優賞、山口智子も新人賞を受賞するなど、まさに映画賞を総なめにしている。 本作の魅力は、古典落語を思わせる人情喜劇といった様相で、登場人物が生き生きとしていることだ。特に印象深いのは、三宅裕司演じる辰夫が、悪い男に騙されて借金を抱えて困っている元妻・カスミ(余貴美子)を助けるために野球賭博に手を出す場面だ。それを気の毒に思った壮太郎が、霊界にいるしず子に野球の結果を聞き出そうとするという展開なのだが、しず子は「それを教えたら、この世に戻って来られなくなる」と断る。 だが、壮太郎は、「死んだ人間より、今生きている人間の方が大切だ」と頭を下げるのだ。辰夫も壮太郎もお人好しなのだが、やはり憎めない。里子の前にも、殺人罪で刑務所に入っていた元恋人の杉本(豊川悦司)が出現して一悶着あるなど、物語は複雑に展開するのだが、終盤はしず子の存在感が大いに増していき、感動的なフィナーレに向かっていく。